完全復刻 NEUMANN U67 最速試聴レポート 〜名機マイクが時代を貫き生き残ってきた訳に迫る〜

世界中のサウンド・エンジニアに「信頼できるチューブマイクを1本選ぶなら?」と問えば必ず上位に挙げられる“NEUMANN U67”。高価なビンテージマイクとしてその存在価値を高めている一方、現在でも、一線で活躍するエンジニアやミュージシャンが、音の背後に潜む表現力の深みまで豊かに収録する一本として絶大な信頼を寄せ、数え切れない数の作品で使われています。

今回、演奏にシンガーのJILLEさん、ピアニストの八谷晃生さん、そして音響ハウスさんにレコーディングをご協力いただき、復刻U67のサウンドチェックを実施。音響ハウスさん所有のオールドU67、U67S(1993年に限定数でリイシュー)と比較しながら2018年復刻U67の比較試聴を実施。アーティストさん、エンジニアさんへのインタビューを軸に、名機マイクU67が60年代~2018年という長い時代の流れを生き残ってきたその訳に迫ります。

収録について

対象モデル

今回はボーカル&ピアノによる演奏を、以下、3つのモデルのU67とU87Aiの計4本を使い、マイクをローテーションしながら全4テイクを収録。なお、マイク信号は音響ハウス 1stスタジオのコンソール SSL SL 9064J – 64VUのヘッドアンプで増幅され、AVID HD I/Oを経てPro Toolsに96kHz/24bitで収録。全てノーEQ、共通のHA Gain設定。

(1) 2018復刻モデル(写真右)
今回、1960年製のオリジナルモデルと全く同じ仕様で完全復刻した最新モデル。以降、表記は“2018モデル”で統一

(2) 1993年リイシューモデル(写真中央)
音響ハウスが所有する1993年に数量限定でリイシューされたU67S。オリジナルモデルよりも明るい特性に調整されている。以降、表記は“U67S”で統一

(3) オリジナルモデル(写真左)
音響ハウスが所有するオールドのオリジナルU67。以降、表記は“オールド”で統一

(4) U87Ai
音響ハウス所有の現行U87。以降、表記は“U87Ai”で統一

マイキング

ボーカルへはポップガードなしでマイキング。

ピアノへはオン、オフ2つのポジションでマイキング。

収録結果 試聴

テイク1

ボーカル:U67S
ピアノ/オン : オールド
ピアノ/オフ : 2018モデル

テイク2

ボーカル:オールド
ピアノ/オン : 2018モデル
ピアノ/オフ : U87Ai

テイク3

ボーカル:2018モデル
ピアノ/オン : U87Ai
ピアノ/オフ : U67S

テイク4

ボーカル:U87Ai
ピアノ/オン : U67S
ピアノ/オフ : オールド

アーティスト・インプレッション

ゼンハイザージャパン(以降、ゼンハイザー) : JILLEさん、八谷さん、お疲れさまでした。今日のセッションの感想はいかがでしたか?

JILLEさん : 「マイクでこんなに違いが出るんだ!」とびっくりしました。レコーディングの時、曲調によってマイクを変えることがありましたが、使うのはせいぜい1、2本だったので今日は楽しかったです。歌の持つメッセージの伝わり方がマイクのチョイスによって変わるんじゃないかなって歌いながら思いました。

ボーカル:JILLE

宮崎県西都市出身。みやざき大使、西都市ふるさと特命大使。
広大な牧場(畜産農家)を営む家の長女として生まれる。幼い頃から英語教育に熱心だった母親の影響により、サウンドオブミュージックやカーペンターズ、ABBAを始め、洋画や洋楽に触れる。2011年インディーズ活動中に国籍、性別をふせシルエット動画として、英詞カバー楽曲(AKB48「フライングゲット」)などをYouTube上にアップし、わずか1カ月で再生数200万回を突破。SNSを中心に驚異的なスピードで世界中から”ダイヤモンド・ヴォイス”として注目を集め、2012年7月に英語カバーアルバム「I AM GILLE.」でメジャーデビュー。新人アーティストとしては異例の15万枚を突破し、2012年オリコン年間アルバム売上枚数ランキング 新人部門1位を獲得する。2015年「第五回香港アジアポップミュージックフェスティバル」に出場。グランプリである「スーパーノーバ賞」を含め3冠に輝き、大会初の大快挙を遂げる。2016年、半年の休養から復帰、リスタートという意味でGからJに改名し『JILLE』として活動を開始。
2017年からJILLE率いるピアノ、チェロ、ヴァイオリンの4人構成『STORYTELLER』での活動も開始。音楽と物語を融合させて日常の幸せを「唄い語る」新しいスタイルのパフォーマンスは各地で好評を得る。キヤノン初のメディカルシリーズCMソングにJILLE楽曲「lalala(ラララ)」が起用される(2018年4月より公開中)。10月末に初のレコーディングライブ「JILLE THE LIVE」を開催。秋にアルバムから先行して4タイトル「PINK SUN」「ROOM」「#JJ」「lalala」を配信スタート。2019年はアコースティックNew Years Live2019、そして5月31日はJILLEオリジナルアルバムリリースパーティを渋谷で開催。 http://jille.co/

ゼンハイザー : 例えばですが、しっとりとしたバラード系の曲だと、どのマイクがいいと思いましたか?

JILLEさん : 個人的にはオールドが好きですが、2018モデルもいいなと思いました。綺麗に伝えられるので、くどくなく、かつ悲しすぎない感じがして今のJ-POP風には合うんじゃないかな。ロングトーンで歌い上げていく曲だと、2018モデルが向いてる気がします。今日の収録パターンになかったですが、ボーカル、ピアノともにオールドを立てると、自分の好きな感じになると思いますが、恋愛ソングのメッセージを伝えるなら、よりストレートに伝えるために2018モデルをボーカルに立てるのがいいかもしれませんね。

八谷さん : 自分もオールドのサウンドが好きなので、ピアノにオールドを立てるとして、歌がキラキラしているのが好みなので、ボーカルには2018モデルがいいかもしれませんね。色んな細部まで音を拾ってくれるので、今の音楽に向いてる気がしました。

ピアノ:八谷晃生

佐賀県出身。国立音楽大学卒業。成績優秀により学内奨学金を得て同大学院音楽研究科入学し首席で修了。最優秀賞並びにクロイツァー賞を受賞。在学中に岡田九郎記念奨学金を2年連続受賞。第56回佐賀県新人演奏会佐賀県音楽協会 新人奨励賞受賞。現在は様々なジャンルの音楽を演奏することはもとより、作編曲やピアノ弾き語り、アーティストへの楽曲提供、CM楽曲制作・出演(Canon、洗剤Nanox)など、多岐にわたる音楽活動を勢力的に展開中。
https://concertmanagement.to-on.com/artists/1203

サウンドエンジニア・インプレッション

エンジニア紹介

音響ハウス 櫻井 繁郎氏 氏(写真左)
基本はスタジオレコーディングを主としていますが、今はフィールドレコーディングなど多岐にわたり活動しています。あらゆる録音に日々挑戦しています。

音響ハウス 中内 茂治氏 氏(写真中)
長嶋茂雄さんの[茂]と王貞治さんの[治]の字を頂きましたが、学生時代はずっとソフトテニスをやってました。ジャンル問わず幅広く手がけてますので一度お試し頂ければこれ幸いです。

音響ハウス 技術開発室 須田 淳也 氏(写真右)

ゼンハイザー : エンジニアの皆さんにお話を伺いたいと思います。今日の試聴の感想、ならびに、エンジニアとしてU67各モデルの使い分けに関しアイデアは浮かびましたか?

音響ハウス 櫻井氏 : 私がレコーディングでまず最初に立てるマイクはオールドU67やU67Sが多いんです。もちろん、ディレクターさんからの「ガッツリくるようなイマドキの新しい音がするマイクない?」みたいなリクエストがあれば状況に応じて変えますが、U67は声にすごく合って好きなんです。今日の試聴で使ったみた感想ですが、すっきりしたサウンドで録りたい時はU67Sで、しっかり深く録りたい時は2018モデルなのかな、というイメージを持ちました。

音響ハウス 中内氏 : 2018モデルはオフマイクで立てた時の感じもいいなって思ったんですが、、、

音響ハウス 櫻井氏 : そうですね。最近発売されている新しいマイクは、オフマイク向きでないものもありますが、2018モデルはちゃんと空間を録っている感じがしました。

音響ハウス 中内氏 : 2018モデルは色んな楽器に、かつ、色んな用途で使える、応用の幅の広さを持っている気がしますね。

ゼンハイザー : それはU87のオールマイティーさと違う感じですか?

音響ハウス 櫻井氏 : そうですね。「この楽器は合わないだろう」というのが思いつかないです。ウクレレや三味線といった線が細いサウンドの楽器にでもOKな気がします。今日は単一指向でしか使ってないのですが、無指向の結果も聞いてみたいです。大人数でのコーラスを録る時のオフマイクに関しては、無指向で録ることが多いんです。

ゼンハイザー : 2018モデルと音響ハウスで所有されているオールドとの比較ですが、どう感じましたか?

音響ハウス 中内氏 : もちろんオールドとは同じではないですが、2018モデルは今の時代のU67という打ち出し方を兼ね備え、オールドと比べても十分に納得できる製品です。最近、アーティストの方でも自分の声に合うマイクを持っている方が多いですが、自分にとって「これだ!」と思うサウンドならば、この2018モデルは高価ですが、絶対、期待に応えてくれる製品であることは間違いないです。また、最近多いプロジェクトスタジオでも「珠玉の一本として、どのマイクを買おう?」となった時のチョイスに最適な製品だと思います。私は「ビンテージだからいい」みたいなこだわりは持たずに、新しいモデルも含め、いい音がするなら色んな製品を使っていこうと思っています。そういう意味で、この2018モデルはオリジナルU67のいいところを継承しつつも、現在の新しさも兼ね備えているので、すごくいいマイクだと思います。

音響ハウス 櫻井氏 : 音響ハウスのブッキング担当者と話していると、1スタ、2スタの両方でストリングス録りが入った時にU67の奪い合いになったりするんですよ(笑)。だからU67はもっと増やしたいマイクなんです。この2018モデルも欲しいですね。

テクニカルトーク

最後に、音響ハウス 技術開発室 須田 淳也氏にも登場していただきました。音響ハウスには大変めずらしいTELEFUNKEN製のU67があり、須田氏は、購入時に音ヌケが悪かったTELEFUNKEN U67に対し、真空管の入れ替え等々、細かなメンテナンス/チューニングを施し、現在、音響ハウスのマイクラインナップにとって、なくてはならない1本として復活させています。

「このTELEFUNKEN U67には、隠し味としてJJ ELECTRONICの新しい真空管を入れているんです。すごく古いU67と最新の真空管の組み合わせのバランスで、今でも使える音を作ってるんです。」とのこと。

そんな豊富な知識と技術で、音響ハウスのレコーディング・イクイップメントのメンテナンスを手がける須田氏に、U67 2018モデルの感想を聞いてみました。

ゼンハイザー : 須田さんは今日の試聴はいかがでしたか?

音響ハウス 須田氏 : NEUMANNがU67を復刻として、今の時代に作ったのはすごいことだと思います! オリジナルとほとんど同じものを作っちゃうんだから、相当研究したと思いますよ。

音響ハウス 櫻井氏 : U67を目指して作られた他社のマイクを、たまに須田が借りて来るんですが、それはそれで悪くないけど何かが違う、、って所でいつも終わるんですよね(笑)。

ゼンハイザー : カタログに掲載してる「何度も模倣されながら、誰にも再現できなかった」というキャッチコピーが言い当ててますよね。

音響ハウス 須田氏 : あまり知られてないかもしれませんが、U67はアウトプット・トランスのクオリティがめちゃくちゃ高いから音がいいんです。これは他社が、どうしても真似できないポイントなんです。出荷時点ではまだ若い音をしてるんですが、2年くらい経つと、さらに音が良くなるんです。ところでNEUMANNでは、ダイアフラムも含め、全部手作業で作っているんですよね?

ゼンハイザー : そうです。NEUMANN本社には作れるエンジニアが3人しかいないそうです。

音響ハウス 須田氏 : 欲を言えば、カプセルなどのパーツもNEUMANNから供給されると嬉しいですね。 音響ハウスで所有しているオールドU67ですが、やはりカプセルのメンテナンスが問題になってきていて苦労しているんです。それにしても今日の試聴で面白かったのは、スペックに関わる色んな事情を知らないミュージシャンのお二人が、一番新しい2018モデルとオールドの組み合わせがいいとおっしゃったことです。時代を経て、新旧が共存できるのがU67の凄さかもしれない。時代を超えて共存することができるのは、製品のクオリティの高さゆえのことかもしれませんね! このU67 2018モデル、音響ハウスに最低でも2台は欲しいですよ。それほど素晴らしいと思います!